GRACE JOURNAL | グレイスジャーナル
Jeisys「TEA Bangkok 2026」登壇報告
この記事の要点(先に結論)
「同じ機器なら、誰が使っても同じ」ということは、起こりません。
高周波・超音波・レーザーといったエネルギーデバイス(熱などのエネルギーを使う医療機器)が「熱を与える機器」であることは確かです。けれど、結果と副反応を分けるのは機器の名前ではなく、①何のための熱か ②どこに届く熱か ③誰が扱う熱かという3つです。熱は、与え方しだいで組織を目覚めさせもすれば、壊しもします。そしてこの二つを分けているのは、別種の現象ではなく“程度の差”にすぎません。2026年6月、バンコクで開かれた国際カンファレンスで「It’s All About Heat(すべては熱の話である)」と題してお話しした内容をご報告します。
はじめに
「同じ機器なら、誰が使っても同じでしょう?」
この質問は、患者さんからだけでなく、医師からも、機器メーカーの方からもいただきます。それだけ自然な感覚なのだと思います。
けれど私の答えは、いつも同じです。まったく違います、と。
2026年6月、タイ・バンコク。Jeisys主催の国際カンファレンス「TEA Bangkok 2026(Tailored Excellence in Aesthetics)」に登壇し、「It’s All About Heat」——すべては熱の話である、と題してお話ししてきました。エネルギーデバイスを日常的に扱う医師が、各国から集まる場です。
その夜にお伝えしたのは、突き詰めればひとつのことでした。熱は、与えれば効くというものではない。

1. 「同じ機器なら同じ結果」が成り立たない理由
冒頭の質問を、少し言い換えてみます。
「包丁は切るためのものですよね。同じ包丁なら、誰が使っても同じでしょう?」
——こう置き換えると、「同じになりようがない」と感じていただけるのではないでしょうか。
何のために切るのか。煮るためか、焼くためか。何を切るのか。肉か、魚か、野菜か。同じ一本の刃物でも、目的と対象が変われば、仕事の中身はまったく別物になります。
美容医療も、これと同じです。
高周波、超音波、レーザー。これらが「熱を与える機器」であることは間違いありません。ただ、そこから先が分かれます。結果と副反応を決めているのは、次の3つです。
- 何のための熱か(目的)
- どこに届く熱か(層と細胞)
- 誰が扱う熱か(術者)
順に、お話しします。

2. 何のための熱か
熱は、組織を「目覚めさせる」こともできますし、「壊す」こともできます。
ここで大切なのは、この二つがまったく別の現象ではないということです。両者を分けているのは、程度の差にすぎません。
ステーキを思い浮かべてください。ちょうどよい時間で火から下ろせば、ちょうどよい焼き加減になります。少し目を離せば、焦げてしまいます。加えている熱の種類が変わったわけではありません。変わったのは、程度だけです。
もちろん、医療機器が扱う熱はステーキほど単純ではなく、さまざまな条件が絡み合います。それでもこの一点に限れば、肌の中でも同じことが起きています。
目的が曖昧なまま熱を入れると、何が起きるか
高周波でも、超音波でも、レーザーでも、「何のために使うのか」が曖昧なまま照射されたとき、その不利益は小さくありません。
色素沈着。陥没。熱傷。避けるべき副反応が、意図しないところで生まれてしまいます。
コラーゲンを縮めるための熱。細胞を刺激するための熱。メラニン(肌の色をつくる色素)だけを壊すための熱。この3つは、与え方がはっきりと違います。目的が決まって、はじめて与え方が決まる。この順番は、逆にはできません。

3. どこに届く熱か
「どこに」と言うとき、私が指しているのは「頬」や「首」といった部位のことではありません。
皮膚の表面から、深部の骨の上まで。その断面の、どの層の、どの細胞に届けるのか。そういう意味の「どこに」です。
肌の中では、細胞がそれぞれの持ち場にいます。
色をつくるメラノサイト(melanocyte/色素細胞)は、表皮の基底層という深い位置。コラーゲンやエラスチン、ヒアルロン酸をつくる線維芽細胞(fibroblast/真皮の司令塔にあたる細胞)は、その多くが真皮の浅い層=乳頭層に位置しています。狙いたい相手によって、届けるべき深さが違うのです。
「そこに入れるつもりではなかった」が起きるとき
自分の使っている熱が、どの層の、どの細胞に吸収されやすいのか。それを把握していないと、「ここに届けるつもりではなかった」という結果が生まれます。
ここに入れたい、と思うだけでは届きません。その層・その細胞に吸収されやすい性質の熱を選んで、はじめて“選択的に”届けることができます。
同じレーザー、同じ高周波を使っていても結果が大きく分かれるのは、この「どこに」が定まっているかどうかによるところが大きいのです。

4. 誰が扱う熱か
もう一度、料理の話に戻ります。
寿司職人、イタリアンのシェフ、中華の料理人。同じ「料理人」でも、仕上がるものはまるで違います。さらに言えば、同じ系統の料理人であっても、師匠と弟子では差があります。
医師も同じです。どの領域を専門としてきたかによって、同じ肌を見ていても、目に入るものが変わります。
ミクロで捉える視点と、マクロで捉える視点。どちらが優れているという話ではなく、両方が要ります。片方だけでは行き詰まる場面が出てきますが、両方を持てるようになると、結果は変わってきます。
理想を言えば、誰がどのように使っても同じ結果が出せるようになるのが一番です。ただ、現実にそれを実現するのは簡単ではありません。私たちがトレーナーとして指導を続けているのは、そのためです。多くの方が良質な美容医療を受けられるよう、業界全体の水準を引き上げる一助になれればと考えています。


5. バンコクの夜に
この日の会場は、各国から集まった医師が、ひとつの場所で顔を合わせる機会でもありました。
壇上で話す時間よりも、むしろそのあとの時間に得るものが多い。同じテーブルで、それぞれの国の患者さん、それぞれの臨床、それぞれの考え方を持ち寄る。話は尽きませんでした。
世界の第一線に立つ医師たちと同じ時間を過ごせることに、心から感謝しています。


おわりに
エネルギーデバイスによる治療をご検討中の方に、ひとつだけお伝えするとすれば——
カウンセリングで、「この治療は、どの深さの、何に働きかけるものですか」と尋ねてみてください。
目的を言葉で説明できる治療であれば、狙いも、副反応への備えも、すでに定まっているはずです。
同じ機器でも、目的が変わり、届く層が変わり、扱う人が変われば、結果は別物になります。
私たちが調整しているのは、出力ではありません。熱を、どの深さの、どの細胞に、どれだけの時間で届けるか。エネルギーデバイスによる治療とは、その一点に尽きます。

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よくある質問
同じ機種のマシンなら、どのクリニックで受けても結果は同じですか?
同じにはなりません。機器は熱を届けるための手段であり、その熱をどんな目的で、どの層のどの細胞に届けるかによって、起こる反応が変わります。設定と狙う深さが変われば、同じ機器でも別の治療になります。
出力が強いほど、効果が高いのでしょうか?
そうとは限りません。熱は与え方によって組織を活性化することも、壊すこともでき、その差は程度の差です。目的に対して過剰な熱は、色素沈着や熱傷といった避けたい反応につながることがあります。効果の程度には個人差があります。
カウンセリングでは、何を確認すればよいですか?
「この治療は、どの深さの、何に働きかけるものですか」とお尋ねいただくとよいと思います。目的を言葉で説明できる治療であれば、狙いも副反応への備えも明確になっているはずです。
エネルギーデバイスの治療に、痛みやダウンタイムはありますか?
治療中に熱感や痛みを感じることがあります。治療後は一時的な赤みやむくみが生じることがあり、程度や続く期間には個人差があります。診察時に目安をお伝えします。
治療をご検討の方へ
- 効果の程度や持続期間には個人差があります。すべての方に同じ結果が得られることを保証するものではありません。
- エネルギーデバイスによる治療では、治療後に一時的な赤み・腫れ・熱感・むくみが生じることがあります。まれに水疱・やけど・色素沈着・一時的な神経の違和感などが生じる可能性があります。
- 妊娠中・授乳中の方、ペースメーカーなどの体内埋め込み機器を使用されている方、治療部位に金属や糸が入っている方など、治療を受けられない場合があります。診察時に必ずご申告ください。
- 本記事で紹介した治療は自由診療(健康保険が適用されない治療)です。費用はカウンセリング時にご案内しています。
- 本記事は医療者向けの学術イベントにおける講演の報告です。特定の機器の効果を保証したり、機器間の優劣を示したりするものではありません。記事中の機器名・イベント名は各社の商標または登録商標です。
- 記事中の写真は、主催者の許可のもと撮影されたイベントの様子です。
お一人おひとりの肌で何が起きているのかを診たうえで、どの深さに、どのような熱を届ける治療が適しているのかをご説明します。
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