駅の階段を下りきったところで、くしゃみがひとつ。
「あ」と思う。ほんの少しだけれど、たしかに。そのあとは何ごともなかったように、また歩き出す。
この話を、誰かにしたことはありますか。ほとんどの方が、一度もありません。
この記事の要点
くしゃみや咳で少し漏れるのは、我慢が足りないからでも、年のせいでもありません。骨盤の底で臓器を支えている骨盤底筋が、出産と閉経という二つの出来事で変化するからです。そして、ここからが大事なところです。骨盤底筋は、鍛えれば変わることが確かめられている筋肉です。ただし、口頭の説明だけで始めた場合、正しく動かせていたのは約半数だったという報告もあります。知ってから始める。それが、遠回りに見えていちばんの近道です。
1|骨盤の底で、臓器を支えている「ハンモック」

骨盤底筋は、骨盤の底に張られた筋肉の層です。膀胱、子宮、腸を、下からハンモックのように支えています。
この筋肉のすごいところは、一日中、休まず働いていることです。立っているとき、笑うとき、重い荷物を持ち上げるとき。お腹に圧がかかるたびに、内臓が下へ落ちないよう、下から受け止めています。呼吸のたびに横隔膜と連動して、上下にゆっくり動いてもいます。
けれど、この筋肉は鏡で見えません。腕の筋肉なら、力を入れれば盛り上がるのが見えます。お腹なら、触ればわかります。骨盤底筋だけは、動いているかどうかを、自分の感覚以外に確かめる方法がありません。
見えないから、気づかない。気づかないから、変わっていく途中に手を打てない。この記事は、その「見えなさ」を埋めるために書きました。
2|出産と閉経。骨盤底筋が変わる二つの理由

骨盤底筋がゆるむ原因は、意志の弱さでも、運動不足だけでもありません。研究で繰り返し確かめられている、はっきりした要因があります。
ひとつめ:出産
経腟分娩は、60歳未満の女性における骨盤底機能障害の、最も強いリスク因子のひとつとして報告されています。多産や、分娩時の会陰裂傷も、長期的な骨盤底の症状に関連すると考えられています。
赤ちゃんが通るとき、骨盤底筋とその周りの神経は、これ以上ないほど引き伸ばされます。多くは時間とともに回復していきますが、出産前とまったく同じに戻るとはかぎりません。それは、体が壊れたということではなく、大きな仕事をした跡です。
Risk factors for pelvic floor dysfunction. In: StatPearls / NCBI Bookshelf.(全文)
ふたつめ:閉経
もうひとつが、閉経です。
骨盤を支える組織には、コラーゲンの合成と分解を調整するエストロゲン受容体があります。閉経でエストロゲンが下がると、筋肉が細くなり、支えているコラーゲンも減っていきます。ハンモックの布地そのものが、少しずつ薄くなっていくようなイメージです。
閉経後の女性では、最大で約4割に、何らかの骨盤底の不調がみられると推定する報告もあります。
Pelvic floor dysfunction—Does menopause duration matter? Maturitas. 2013./Local Oestrogen for Pelvic Floor Disorders: A Systematic Review. PLOS ONE. 2015.
このほか、肥満、慢性的な便秘、長く続く咳など、お腹に繰り返し圧がかかる状態も、骨盤底への負担を積み重ねる要因として挙げられています。便秘を整えることは、骨盤底のケアでもあります。
3|「年のせい」で片づけられてきたこと

骨盤底筋の働きが落ちると、体には次のような変化が現れることが報告されています。
診察室で、こうしたお話を伺うことがあります。多くの方が、少し声を落として、「たいしたことではないのですが」と前置きをされます。
けれど、これは「たいしたことではない」の中に押し込めておくには、少し大きすぎる話です。旅行に行くとき、トイレの場所を先に確認する。大きく笑うのを、少しためらう。運動を、なんとなくやめる。生活が、少しずつ小さくなっていきます。
性機能や腰まわりの不調との関連は、いずれも骨盤底の状態との「関連」を示す報告であり、骨盤底筋だけが原因と断定するものではありません。また、尿もれの背景には膀胱や神経の病気が隠れていることもあります。急に始まった、量が増えている、痛みや血尿を伴うといった場合は、婦人科・泌尿器科でご相談ください。
4|鍛えれば、変わる。74%と11%の差
ここからが、この記事のいちばん伝えたいところです。
骨盤底筋は、鍛えれば変わることが、きちんと確かめられている筋肉です。
コクラン・レビューという報告形式があります。世界中のランダム化比較試験を集めて統合したもので、医学のエビデンスの中でも信頼性が高いとされるものです。骨盤底筋トレーニングについては、31の試験・1,817人の女性のデータがまとめられています。
結果は、こうでした。
トレーニングをした
改善または治癒
74%
しなかった
改善または治癒
11%
「治った」と評価された方だけで見ても、腹圧性尿失禁では56%対6%。1日あたりの漏れの回数も、トレーニング群で約1回少なくなっていました。
この結果をもとに、骨盤底筋トレーニングは尿失禁に対する保存的治療の第一選択のひとつとして位置づけられています。手術でも、薬でもなく、自分の筋肉を動かすことが、です。
Dumoulin C, Cacciari LP, Hay-Smith EJC. Pelvic floor muscle training versus no treatment, or inactive control treatments, for urinary incontinence in women. Cochrane Database Syst Rev. 2018;10:CD005654./要約版:Cacciari LP, Dumoulin C, Hay-Smith EJ. Braz J Phys Ther. 2019;23(2):93-107.(全文)
妊娠・産後についても、別のコクラン・レビューがあります。妊娠中から骨盤底筋トレーニングを行った方では、産後3〜6か月以降の尿失禁が約29%少なかったと報告されています。
Woodley SJ, Lawrenson P, Boyle R, et al. Pelvic floor muscle training for preventing and treating urinary and faecal incontinence in antenatal and postnatal women. Cochrane Database Syst Rev. 2020;5:CD007471.
変えられないこと(出産・閉経)と、変えられること(筋肉)が、同じ体の中に並んでいます。
5|ただ、半分の方は「違う動かし方」をしている
ここで、知っておいていただきたいデータがあります。

1991年の研究です。女性47名に、標準化された口頭の説明だけを行い、骨盤底筋を締めてもらいました。そのうえで、実際に正しく収縮できているかを確認しています。
正しくできていたのは、23名(約半数)。そして12名(4人に1人)は、いきむような、かえって骨盤底に負担をかけかねない動かし方をしていました。
Bump RC, Hurt WG, Fantl JA, Wyman JF. Assessment of Kegel pelvic muscle exercise performance after brief verbal instruction. Am J Obstet Gynecol. 1991;165(2):322-329.(要旨)
この研究の結論は、はっきりしています。簡単な説明だけでは、骨盤底筋トレーニングを始める準備として十分ではない。
もう一度、1章の話に戻ります。この筋肉は、鏡で見えません。だから「やっているつもり」と「やれている」の間に、差が生まれやすいのです。
効果が出ないのは、続けられなかったからではなく、動かしている場所が違っていたから。そういうことが、実際に起こります。
6|スティムシュア ― 横になったまま、骨盤底筋に「動け」と伝える
ベッドに横になって、20分。本を1章読み終えるくらいの時間です。その間に、装着した部位の筋肉にはおよそ24,000回の「動け」という合図が届きます。それがスティムシュアという治療です。

何が起きているのか
スティムシュアは、高エネルギー電磁誘導(High Energy Electromagnetic Inductive Device)と呼ばれる仕組みの医療機器です。電磁的な刺激で、装着した部位の筋肉に収縮と弛緩をくり返させます。自分の意思で力を入れるのではなく、外から合図が届く形です。
座ったまま、あるいは横になったまま。「どこを締めればいいのか分からない」という、いちばん最初の壁を越えなくてよいという点が、この治療の性格をよく表しています。
ご相談いただける部位
当院でご案内しているのは、次の3つの部位です。

変化は、静かに始まります。臨床試験では、変化を感じられるまで平均8週間程度と示されています。1回で完結する治療ではなく、回数を重ねる前提の治療です。感じ方には個人差があります。
この記事でご紹介した74%・56%という数字は、ご自身で能動的に行う骨盤底筋トレーニングの研究結果です。電磁気刺激による他動的なアプローチは方法が異なり、同じ効果を保証するものではありません。また、尿もれや骨盤底の症状の原因はさまざまです。骨盤底筋への刺激が適しているかは診察で確認し、必要に応じて婦人科・泌尿器科へのご相談もおすすめしています。
費用
1回
1部位
33,000円
4回チケット
1回・1部位
22,000円
(88,000円)
半年以内有効
8回チケット
1回・1部位
16,500円
(132,000円)
半年以内有効
自由診療(保険適用外)です。表示は当院公式サイトの料金表に基づきます。料金は変更される場合がありますので、最新の料金・適応・回数は公式サイトの料金表および診察でご確認ください。
国内未承認医療機器に関する情報開示
受けられない方・注意していただきたいこと
- 体内に磁性体(心臓ペースメーカー、除細動器、人工内耳、可動型義眼、インスリンポンプ、神経刺激装置、人工股関節など)をお持ちの方は施術を受けられません。
- 生理中・妊娠中の方、1週間以内に他機器による部分痩身や類似の施術を受けられた方も施術を受けられません。
- 施術後に、頭痛、筋肉痛、違和感、一時的な筋の収縮(有痛性筋痙攣/筋クランプ)がみられることがあります。多くは時間の経過とともに改善しますが、強い症状や続く症状がある場合は医療機関へご相談ください。
- 体内の医療機器・金属、持病、内服薬、妊娠の可能性については、必ず事前にお申し出ください。
よくある質問
骨盤底筋トレーニングは、どれくらい続ければよいですか?
多くの臨床試験では、週3回程度・12週間前後のプログラムが用いられています。数日で変わるものではなく、数週間から数か月の単位で考えていただく必要があります。感じ方には個人差があり、すべての方に同じ結果を保証するものではありません。
自己流でやっていますが、効いているか分かりません。
その感覚は、めずらしいものではありません。口頭の説明だけで行った場合、正しく収縮できていたのは約半数だったという研究報告があります(Bump RC et al. 1991)。骨盤底筋は目で見えないため、「やっているつもり」と「やれている」の差が生まれやすい筋肉です。一度、確認してから続けることをおすすめします。
スティムシュアを受ければ、この記事の74%という結果が得られますか?
いいえ。74%・56%という数字は、ご自身が能動的に行う骨盤底筋トレーニングの研究結果です。スティムシュアは電磁気刺激で装着部位の筋収縮を補助する治療で、方法が異なります。同じ効果を保証するものではありません。この線引きは、診察でも必ずお伝えしています。
尿もれがあります。まず何科に相談すればよいですか?
尿もれの原因はさまざまで、膀胱や神経の病気が背景にあることもあります。急に始まった、量が増えている、痛みや血尿を伴うといった場合は、まず婦人科・泌尿器科でご相談ください。当院でも、骨盤底筋へのアプローチが適しているかを診察で確認し、必要に応じて専門科へのご相談をおすすめしています。
出産してから何年も経っていますが、今からでも間に合いますか?
骨盤底筋は、年齢を重ねてからでも変化が期待できる筋肉です。コクラン・レビューに含まれる研究の対象には、閉経後の女性も含まれています。ただし効果には個人差があり、症状の程度や原因によって適した方法は異なります。診察でご相談ください。
スティムシュアを受けられない場合はありますか?
あります。体内に磁性体(心臓ペースメーカー、除細動器、人工内耳、可動型義眼、インスリンポンプ、神経刺激装置、人工股関節など)をお持ちの方、生理中・妊娠中の方、1週間以内に他機器による部分痩身や類似施術を受けられた方は施術を受けられません。スティムシュアは国内未承認医療機器であり、自由診療です。ご不明な場合は、ご予約前にお問い合わせいただいて構いません。
RESEARCH NOTE
出典と研究について
本記事の中心となるのは、コクラン共同計画によるシステマティックレビューです。骨盤底筋トレーニングと、無治療または不活性な対照とを比較した31のランダム化比較試験(14か国・女性1,817人)を統合し、腹圧性尿失禁および混合型尿失禁への効果を検討しています。レビューは、骨盤底筋トレーニングが尿失禁の症状を治癒・改善しうることを「確信度の高い」エビデンスとして示し、女性の尿失禁に対する保存的治療の第一選択に含めるべきであると結論づけています。
ただし、含まれる試験の多くは規模が小さく、トレーニングの内容(回数・強度・指導方法)も統一されていません。数字はあくまで研究集団での平均的な傾向であり、個々の方に同じ結果が起こることを約束するものではありません。また、これらは能動的な骨盤底筋トレーニングの研究であり、スティムシュアをはじめとする医療機器の効果を検証したものではありません。
Dumoulin C, Cacciari LP, Hay-Smith EJC. Pelvic floor muscle training versus no treatment, or inactive control treatments, for urinary incontinence in women. Cochrane Database of Systematic Reviews. 2018;10:CD005654. レビュー概要 →
Cacciari LP, Dumoulin C, Hay-Smith EJ. Pelvic floor muscle training versus no treatment… a Cochrane systematic review abridged republication. Brazilian Journal of Physical Therapy. 2019;23(2):93-107.
Woodley SJ, Lawrenson P, Boyle R, et al. Pelvic floor muscle training for preventing and treating urinary and faecal incontinence in antenatal and postnatal women. Cochrane Database of Systematic Reviews. 2020;5:CD007471.
Bump RC, Hurt WG, Fantl JA, Wyman JF. Assessment of Kegel pelvic muscle exercise performance after brief verbal instruction. American Journal of Obstetrics and Gynecology. 1991;165(2):322-329.
Risk factors for pelvic floor dysfunction. NCBI Bookshelf. 2022.
Pelvic floor dysfunction—Does menopause duration matter? Maturitas. 2013;76(2):146-150.
スティムシュアの仕様・適応・費用・副反応に関する記載は、ヒルズグレイスクリニック公式サイトのスティムシュア治療ページに基づきます(2026年9月時点)。
TREATMENT INFORMATION
治療について
- 施術名
- スティムシュア(StimSure)
- 診療区分
- 自由診療(保険適用外)
- 使用量・部位
- 腹部・臀部・骨盤底筋など。適応・装着方法は診察で確認します。
- 公式料金の目安
-
1回
1部位
33,000円
4回チケット
1回・1部位
22,000円
(88,000円)
半年以内有効
8回チケット
1回・1部位
16,500円
(132,000円)
半年以内有効
表示は公式料金の目安です。自由診療(保険適用外)です。最新の料金・適応・回数は公式案内および診察でご確認ください。
- 主な副作用・リスク
- 筋肉痛、頭痛、筋痙攣、違和感などが起こることがあります。体調や症状により受けられない場合があります。
- 未承認医療機器に関する事項
- 日本国内で薬機法上の承認を得ていない未承認医療機器です。国内代理店を経由して入手しています。同一の性能を有する国内承認医療機器はありません。米国FDAでは筋肉の強化・引き締めの適応で承認されています。






