この記事の要点
たるみの治療で使う機器のエネルギーは、レーザーも超音波も高周波も、すべて皮膚を通ってから深いところへ届きます。厚さ2mmほどの皮膚は、体を守るための壁でもあります。ここが乾いて硬くなっていると、同じ機器で同じ設定を使っても、狙った深さにエネルギーが届きません。
だから私は、たるみ治療で最初にすべきことは肌そのものを整えることだと考えています。入口が整っていれば、強い出力を使わなくても結果は出ます。この考え方を「The Gate Principle(入口の原則)」として、2026年8月30日、マレーシアのプトラ大学で開催された国際セミナー「Beyond Tightening」に講師として登壇し、アジア7つの国と地域から集まった50名を超える医師にお話ししました。この記事では、その内容を患者様に向けて書き直してお伝えします。
はじめに
「年齢と共に、引き締める治療の効果が減ってきた」
以前の私は、その理由を機器や照射の技術の問題として説明していました。いまは違う答え方をします。
変わらなかった原因は、皮膚にあることがほとんどでした。エネルギーは必ず皮膚を通ってから、その下へ届きます。その入口が閉じていれば、どんな機器を使っても奥までは届きません。

1. エネルギーは、すべて皮膚を通っていく
レーザー、超音波、高周波。たるみの治療に使う機器はいろいろありますが、共通していることがあります。体の外から当てる以上、エネルギーは必ず皮膚を通ってから、その下の組織に届くということです。
皮膚の厚さは、顔でおよそ2mm。表皮と真皮という二つの層でできていて、本来の役割は体を守ることです。つまり、外から来るものを通さないための壁です。エネルギーにとっても、皮膚はまず壁として働きます。

ですから、治療の前にこの壁を、エネルギーが通りやすい状態にしておく必要があります。「入口である肌が整っていなければ、望む結果は手に入らない。逆に入口が整っていれば、弱いエネルギーでも結果を得るのはたやすい」。これが、私がこの日いちばん伝えたかったことです。
2. 乾いた肌に、高周波が効きにくい理由
もう少し具体的にお話しします。機器によって、通りやすい肌の条件が違うからです。
高周波(RF)が狙っているのは、組織の中の水分です。水を伝わって熱が生まれます。ですから乾いて角層が厚くなった肌では、熱が表面近くで発生してしまい、深いところまで届きません。しかも乾いた角層は熱を逃がす力も弱いので、同じ出力なのに冷却が追いつかず、やけどにつながることがあります。

超音波(HIFU)が反応するのは、水ではなくコラーゲンです。こちらは潤っているかどうかではなく、コラーゲンが密に、整った状態で並んでいるかどうかで届き方が変わります。日焼けを重ねた肌では真皮のコラーゲンが変性していて、狙った深さに焦点を結びにくくなります。
効果を出したいときに、同じ場所へ重ねて照射したくなります。しかしこれは逆効果になります。高周波では熱い場所がさらに熱くなり、超音波では手前が熱くなって奥に届かなくなる。頬の脂肪が落ちてこけて見えるという報告は、この重ね打ちと無関係ではありません。
会場では、この違いを一文にして共有しました。高周波は水で伝わる。超音波はコラーゲンで止まる。だから「肌を整える」という言葉の中身も、使う機器によって変わります。

3. だから、たるみ治療には順番がある
ここまでを踏まえると、治療の順番が決まります。
日焼けを重ねてきた肌は水分を失っています。高周波が狙う相手がいない状態です。ですからいきなり高周波から始めるのは、良い選択とは言えません。まずレーザーや超音波で肌の質を整え、4週から8週ほど待ちます。肌が応えられる状態になってから、引き締めの治療に入ります。

順番を変えるだけで、同じ機器、同じ設定でも結果が変わります。私が診察で治療計画を組み立てるとき、いちばん時間をかけて考えるのはここです。

4. 熱は、細胞を壊すためではなく起こすために使う
もう一つ、機器の使い方そのものについてお話ししました。
細胞に熱を加えたとき、起こることは三つに分かれます。
HEAT AND CELLS
熱の量で、細胞に起きることは変わる
- 1
- 少なすぎる細胞は何も変わりません。治療をしても手応えがない状態です。
- 2
- ちょうどよい細胞の活動が上がり、コラーゲンがつくられ始めます。ここが狙うべき範囲です。
- 3
- 多すぎる細胞の活動が止まり、組織が壊れます。長い目で見ると、肌の力はむしろ落ちます。

言葉にすると当たり前に聞こえます。ところが実際の現場では、三番目を狙って機器が使われていることが少なくありません。しっかり引き締めたい、この組織を減らしたい。そういう気持ちで出力を上げるからです。
私たちが狙うべきなのは、二番目です。強く当てて焦がすことは、その場では効いたように見えても、組織が次に応える力を確実に削ります。
目安になるサインがあります。治療のあとに「肌がくすんだ」「乾燥する」「赤みが引くまで時間がかかった」と感じたときは、エネルギーの入れすぎを疑ってよいと思います。そういう場合は、肝斑の悪化を一緒に起こしていることが多いからです。

5. 診断は、写真の撮り方から始まっている
この日、もう一つ時間をかけて話したのが、臨床写真です。
私たちは診察室で直接お顔を拝見しますが、すべての患者様の状態を正確に記憶しておくことはできません。前回とくらべてどう変わったか、いま行っている治療が合っているかを判断する材料が、写真です。私たちにとって臨床写真は、CTやレントゲンと同じ検査です。
撮影の条件がばらばらなCTが出てきたら、医師は必ず「条件をそろえて撮り直してください」と言います。顔写真もまったく同じです。角度、明るさ、表情。この三つがそろって、はじめて比べられる写真になります。
当院では、正面と左右45度の最低3方向を、視線を水平にして撮影します。上目づかいも下向きもいけません。立ったままだと立ち位置がずれるので、回転する椅子に座っていただき、こちらの合図で向きを変えていただきます。カメラはホワイトバランスを合わせ、マニュアルで撮ります。自動モードは、その場その場で最適な絵にすることは得意でも、毎回同じ条件で撮ることは苦手だからです。スマートフォンやタブレットが臨床写真に向かないのも、同じ理由です。

会場のスクリーンには、こう書きました。カメラも一つのデバイスである。照射する前にすべての設定を確認するのと同じ規律を、撮影にも持つ。そう話したとき、会場の医師たちが一斉にメモを取り始めたのが、舞台の上からもよく見えました。

6. 顔は、層で診る
肌が整ったら、次は顔全体のどこに手をかけるかを決めます。顔は、皮膚、皮下の脂肪、その下の膜と筋肉、そして骨という層でできています。大切なのは、どの層にどれだけ配分するかを決めることです。

皮下の脂肪の層には、脂肪そのものだけでなく、脂肪を支える細かい線維が網の目のように走っています。この線維がゆるんで伸びることが、たるみの一因になります。ですから熱を入れるときは、まず全体に、そのあとで支持靭帯(顔を支えている靭帯)の周りに重ねる。この順番を、私は Mono-Bi CrossLIFT Technique® として論文にまとめました。連続して2回、3回と同じ場所に重ねないことが、この方法の要点です。
筋肉の層では、加齢とともに引き上げる筋より引き下げる筋の力が強くなります。そのため、鏡の中の自分が不機嫌に見えるようになります。表情が乏しくなったのではなく、表情の信号がぼやけるのだと考えると分かりやすいと思います。ここは鍛えるのではなく、引き下げる側の力を少しだけ弱めるほうが、自然な印象に戻ります。
骨には、いまのところ機器で働きかける方法がありません。骨の減少を穏やかにしていくには、体の内側からの対策が必要になります。ここは正直にお伝えしています。

この日、注入治療を担当した台湾の Dr. Shangli Lin も、同じ方向から話していました。目の下のたるみ、ほうれい線、口角から下がる線。これらは、顔を支えている構造が失われた結果として現れるということ。だから注入も、膨らませるためではなく、支えを戻すために行うのだということ。層を正しく見分けて、正しい層に届かせる。彼はそれを繰り返し話していました。
私が組織の質を、彼が構造の支えを担当し、最後に一つの治療の順番として組み立て直す。この往復が、この日の中心でした。

7. マレーシアの大学で開催された国際セミナーに登壇して
この内容を伝えた場が、マレーシアのプトラ大学で開催された国際セミナー「Beyond Tightening」です。私が設立した Hills Grace Global Medical Institute(GMI)と、Dr. Shangli Lin の ShangLift Academy が、主催の Xcelerator Edge とともに組み立てた一日制のプログラムで、私は講師として登壇しました。

午前は全員で講義、午後は二つの部屋に分かれて実技です。私の部屋では、実際にモデルの方に照射しながら、いま組織のどの層を狙っているのか、なぜここは出力を落とすのか、なぜここは触らないのかを、一手ごとに言葉にしていきました。


正直に書けば、いちばん苦労したのは手技ではなく、原理を理解してもらうことでした。出力を上げれば結果が良くなるわけではない。細胞が応えられる幅の中で熱を設計する。言葉では頷いていただけます。けれど、長く続けてきた「強く当てる」という習慣は、その場で入れ替わるものではありません。同じ原理を、スライドの一本の線で、手の感触で、照射の一手ごとに、角度を変えて繰り返すしかありませんでした。

それでも午後の終わりには、部屋の空気が変わっていました。受講する側ではなく、一緒に考える側の顔になっていく。休憩時間の廊下でも、相談が続きました。

おわりに
最後に、患者様にお伝えしたいことが二つあります。
一つは、整えた状態は、放っておくと戻るということです。注入した材料は少しずつ吸収されますし、機器で一度上がった細胞の活性も、3か月ほどかけて下がっていきます。どちらも消耗品だと考えて、続けることを前提に計画を立てるほうが、結果は安定します。
もう一つは、速さについてです。私は診察で「すぐに効果が出ます」とは申し上げません。肌が応えられる状態を整え、順番を守って治療を組み立てると、結果が見えるまでには時間がかかります。そのぶん、戻りにくくなります。
引き締めを重ねても変わらなかった。その経験があるなら、原因は機器ではなく順番にあったのかもしれません。横浜あざみ野の診察室では、そこから一緒に考えます。
よくある質問
引き締める治療を受けたのに、あまり変わりませんでした。なぜでしょうか。
理由はいくつか考えられますが、肌が乾いて硬くなっていると、エネルギーが深いところまで届きにくくなります。この場合は出力を上げるのではなく、先に肌の質を整えてから引き締めの治療に入ると、同じ機器でも届き方が変わります。効果の感じ方には個人差があります。
出力が高いほど、よく効くのですか。
そうとは限りません。細胞が反応できる熱の幅は決まっていて、それを超えると活動が止まり、組織が傷みます。治療後にくすみ、乾燥、長引く赤みを感じた場合は、入れすぎのサインとして診察でご相談ください。
肌を整えてから引き締めるまで、どのくらい待ちますか。
肌の状態によりますが、4週から8週を目安にしています。この期間は何もしないわけではなく、肌質を整える治療やご自宅でのケアを続けていただきます。
骨のやせは、機器の治療で戻せますか。
いまのところ、骨に働きかける機器はありません。骨の減少を穏やかにするには体の内側からの対策が必要で、必要に応じて他科と連携しながらご提案しています。
治療をご検討の方へ
- 効果の程度や持続期間には個人差があります。すべての方に同じ結果が得られることを保証するものではありません。
- エネルギーデバイス治療では、治療後に一時的な赤み・腫れ・熱感・むくみが生じることがあります。まれに水疱・やけど・色素沈着・一時的な神経の違和感などが生じる可能性があります。
- 注入治療では、内出血・腫れ・しこり・左右差などが生じることがあります。まれに血管閉塞などの重い合併症が報告されています。
- 妊娠中・授乳中の方、ペースメーカーなどの体内埋め込み機器を使用されている方、治療部位に金属や糸が入っている方など、治療を受けられない場合があります。診察時に必ずご申告ください。
- 本記事で紹介した治療は自由診療(健康保険が適用されない治療)です。費用はカウンセリング時にご案内しています。
- 本記事は医師向け教育プログラムでの講演内容を、患者様向けに書き直したものです。特定の機器や治療法の効果を保証したり、優劣を示したりするものではありません。
たるみやフェイスラインのお悩みは、横浜あざみ野のヒルズグレイスクリニックまでご相談ください。
いま必要なのは肌を整えることなのか、支えを戻すことなのか。お一人おひとりのお顔を診たうえで、治療の順番からご説明します。
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